新卒ベンチャーの何がいけないのか

何度も書いている新卒ベンチャー問題について。

頂いたご質問

こちらのようなご質問をいただいたので、マジレスしたいと思います。

ベンチャーや中小のような会社は絶対に新卒で行くなという言説がTwitterでは主流のようですが、新卒カードを切った結果に納得がいかない場合、医師や士業を目指して強い看板を持つファーストキャリアに何としても食らいつくのが最善策なのでしょうか?それともネルさんが過去に仰ったように、競争に敗北した自分を受け入れてベンチャー等に入社すべきだと考えますか?

絶対にダメだとは言っていない

まず、誤解していただきたくないのですが、新卒ベンチャーは絶対にダメだ、とは言っていません。新卒でベンチャー企業に行こうとしている学生の大半は、就活ビジネスに唆されているから行こうとしているのであって、本心でベンチャーが良いと思っているわけじゃないんですよね。だからやめとけ言っているだけで、実態をよく理解したうえで、心の底からベンチャーに行きたいと思っているなら、周囲の反対を押し切ってベンチャーに行けばよいと思っています。

ただし、現実問題として、大手よりベンチャーが良いと言っている学生の99.9%は、ゴールドマンまたはマッキンゼー(もしくは三菱商事)の内定をもらったらそっちに行きます。トップティアの企業から採用される自信がなく、中途半端にそれらの下位互換に行くのはプライドが許せないから、比較不可能な雰囲気のあるベンチャーに行こうとしているだけです。だからこそ、とりあえずトップティアの企業から内定をもらってから考えろと言っています。そもそも、本気でベンチャービジネスをやりたいと考えている人は、「大手とベンチャーのどっちが上か」みたいな議論はしないんですよ。上下とかティアとかを気にしている時点で、トップティアから内定をもらったらトップティアに行くタイプの人間です。間違いなくそうです。

さらに、新卒でベンチャーに行くくらいなら、さっさと大学を中退して起業すればよいと思います。マッキンゼーで働くことが万人にとって絶対に有意義だとは言いませんが、少なくとも大学で勉強するよりははるかに成長できるはずです。マッキンゼーで数年間経験を積むのが無駄だというのならば、大学に通う時間は確実に無駄なので、即日中退すべきです。そういう覚悟もないくせに、新卒の就職先だけベンチャーがベストであるなどと主張するのは、あまりにもご都合主義的すぎます。

大手企業に採用されなかったらどうするか

一般的に、各業界で生き残れるのは3社程度だといわれています。業界4番手の企業というと、家電でいえばシャープ、自動車でいえばマツダ、商業銀行でいえばりそなです。このあたりの企業は、20年後に生き残っていない可能性が確かにあります。実際、シャープは一度破綻しかけています。一方で、勢いのある業界であれば、10社か20社くらい生き残れる可能性があります。さらに、勢いのある業界のほうが人材の流動性が高いです。ここではじめて、大手(4番低下)よりベンチャーのほうが良いかもしれないという議論ができます。古い業界の4番手で働いている人は、そのまま会社と心中するしかないかもしれませんが、勢いのある業界の30番手なら、20番手や10番手の企業に転職できる可能性が十分にあるからです。

上記の点を踏まえると、新卒就活における優先順位が見えてきます。まず、トップティアのコンサル、金融専門職、IT専門職などに興味がある且つ内定を獲得する能力がある場合は、とりあえず入社しておくのが良いと思います。上記に興味がない or 採用されなかった人のうち、各業界の3番手くらいまでに入れる人は、素直に入っておくのが良いと思いでしょう。興味のある業界に入れる保証はありませんが、どこかに拾ってもらえれば、キャリアで詰むリスクは大幅に下がります。

ここまでには入れなかった人は、自分自身が優秀でない可能性を自覚する必要があります。営利企業では活躍できない(=要するに、組織で稼ぐ能力が低い)可能性が高く、少なくとも、多くの営利企業からそう評価されたという事実は認識すべきです。それを自覚したうえで、一般的な営利企業とは価値基準が異なる組織(後述)で働くか、非大手の一般企業で働くかを選択することになります。この文脈におけるベンチャー企業は、「非大手の一般企業」の一種でありながら、一般的な営利企業とは価値基準が少し異なる組織だといえます。

医師、士業、公務員、起業について

前述の「一般的な営利企業とは価値基準が異なる組織」の代表例が、官公庁や学術機関です。冒頭のご質問にあった医師や士業も、基本的にはここに含まれると思います。このような組織は、そもそも営利企業とはゲームのルールが違います。稼げるから偉いわけでも、稼げないから無能なわけでもありません。営利企業から「稼げそうにないから採用したくない」と評価された人であっても、これらの組織でなら活躍できる可能性が十分にあります。起業などもそうです。営利企業の従業員として活躍するための能力と、起業家として成功するための能力はまったく異なるので、一方で無能扱いされていた人が他方で活躍できる可能性は十分にあります。もちろん、どんな環境でも活躍できる人もいれば、あらゆる環境で活躍できない人もいます。

ただし、士業については留意が必要です。大手企業を顧客としている大手事務所は、基本的には営利企業と同じ価値基準で動いていると思われます。例えば、4大弁護士事務所で働いている弁護士は、営利企業に行っても活躍しそうな人ばかりです。営利企業で活躍できそうにないから弁護士を目指すというのであれば、刑事事件や相続などを扱う街の弁護士を目指したほうが良いかもしれません。

セカンドキャリア

新卒ベンチャーに否定的な人が多い一方で、中途ベンチャーはそれほど否定されていません。その背景についてです。結論としては、以下の2つに収束します。

1つ目は、ベンチャーから大手の転職が難しいことです。新卒でベンチャーに入ると、あとから大手に転職したくなったときに、相当ハードルが高くなります。転職できたとしても、大手の子会社や孫会社に平社員として採用される程度であり、親会社の本社勤務などはかなり例外的です。一方で、新卒で大手に入っておけば、その後にベンチャーに行って嫌になったとしても、別の大手企業に転職できる可能性が高いです。ベンチャー企業の人が、「当社から大手に転職した人もいる」などと言っていた場合、基本的にはこのパターンです。

2つ目は、そもそも、ベンチャーは中途で入ったほうが有利であることです。こちらが本質的な問題です。新卒でゴールドマンに入った人がベンチャーに転職すると、場合によっては社会人3-4年目でCFOになります。新卒でリクルートや総合商社に入った人がベンチャーに転職すると、社会人5-7年目くらいで営業部長とかになります。一方で、新卒でベンチャーに入った場合、社会人5年目では、年収550万円の名ばかりマネージャーくらいが関の山でしょう。このように、ベンチャーは中途で入ったほうが有利です。

ベンチャー就職は敗北者か

受験生にとって志望校合格が全てであったように、就活生にとっては志望企業の内定が全てです。しかし、大学生にとって大学名が全てではないように、社会人にとっては勤務先がすべてではありません。それぞれの企業内に必ず面白い仕事が存在しますし、仕事以外にもいくらでもやることはあります。

よって、ここまでいろんなことを書きましたが、職業などというのは人生のほんの一部に過ぎず、本来はそんなに気に病むようなものではありません。新卒の就職先ごときで人生が左右されているのであれば、それは就職先のせいではなく、単に本人の器がその程度だったというだけでしょう。ベンチャーに入ったから敗北者なのではなく、ベンチャーにしか入れなかったことで悩んでいるマインドが敗北者なのだと思います。人生には、面白いことがたくさんあります。クソみたいなこともたくさんあります。それを全て勘案して自分の人生を評価すべきであり、就職先に過度にこだわる必要はありません。

以上です。