EBITDAとは何なのか

EBITDAをどう理解し、何に使うか。Noteの焼き直し。

利益の一種に過ぎないということ

企業金融の学習を始めると序盤に登場するEBITDAという指標だが、何やら難しそうだし読み方も分からない。このような指標のせいで企業金融の勉強が億劫になってしまう方も多いと思う。しかしながら、いかついアルファベットで書かれているから身構えてしまうだけで、日本語に訳せば償却費前営業利益という利益の1種に過ぎない。短くして償却前利益と呼んでもいいだろう。これなら、税引前利益と似たような響きではないだろうか。償却費前営業利益は、文字通り償却費を考慮する前の営業利益のことである。

さて、税引前利益は、売上高-営業費用+営業外損益特別損益という計算で求められる。利益の意味合いから言えば、(売上高+営業外収益+特別利益)-(営業費用+営業外費用+特別損失)と括ったほうが良いのかもしれないが、少しわかりづらいだろうか。税金の計算より前に書かれている費用を、売上から引くのである。税引前利益の計算をするときに、税引後利益+税金などという計算をする人は、おそらくほとんどいない。

償却前利益も同じだ。償却費より前に書かれている売上原価や販管費というものを売上から引いて求める。ただし、償却費というのは売上原価や販管費に含まれている費用であるから、償却前利益の計算は少し複雑になる。売上高-償却費を除く売上原価-償却費を除く販管費という計算になるわけだ。もう少し整理するなら、売上高-(売上原価+販管費-償却費)という式になる。税引前利益を純利益+税金で計算しないのと同様に、営業利益+償却費などという計算をするのは邪道だといえる。あくまでスタート時点は売上高のほうが良い

最も重要な費用のみを考慮する簡易的な利益

損益計算書に記載すらされていないにも関わらず、企業金融にかかわる様々な場面で登場するのがEBITDAという指標である。最大の理由は、企業間の比較がしやすいという点だろう。EBITDAをスペルアウトすると、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationで、この頭文字がEBITDAというわけである。直訳するなら利払前・税前・償却費前利益ということになるが、この3つを考慮していない点が、実は非常に使い勝手が良い。企業価値評価の文脈では、資本構成を無視する(ここでは利払いを考慮しないの意)という行為がよく行われる。したがって、利払前の利益は企業価値評価の文脈でニーズが高い。そして、税金は国や地域によって制度が異なる。このため、企業の実力を測るときにはできれば考慮したくない。横比較が難しくなるからだ。同様に、減価償却の制度も国や業界によって結構違う。したがって、税金や償却費を考慮する前の利益というのは、企業間比較をする際に使い勝手が良い利益であるといえるのだ。このように、EBITDAというのは、できれば考慮したくないいくつかの項目が、都合よく取り除かれている指標なのである。

もう少し掘り下げて議論をすると、EBITDAは特別損益や為替差益といった一時的な利益も考慮していない。こういった一時的な費用や利益も、企業間比較という文脈ではできれば無視したい指標である。EBITDAは実に都合よく、排除したい要素を排除できているといえる。

考慮していないものが多いので、むしろ考慮しているものを考えたほうが簡潔かもしれない。EBITDAが考慮しているのは、原材料費、人件費、広告費などである。もちろんこれだけではないが、これらが大きな割合を占めるのは事実だろう。償却前利益と聞くとイメージが湧かないかもしれないが、売上高-原材料費-人件費-広告費という数式を思い浮かべることができれば、EBITDAというものがどのような利益なのかを直感的に理解できるのではないかと思う。複雑なものではなく、むしろ最小限の費用だけを考慮した簡易的な利益だといえるように思う。このような整理の仕方は、金融業界において一般的だとは言えないが、私はこのように整理するのが最も明快であると考えている。

過度に簡易的だという批判も存在する

EBITDAという指標は、最重要の費用のみを考慮した利益だという説明の仕方をした。この説明の仕方であれば、EBTIDAが万能なようには見えないだろう。しかし、EBITDAは目立った名前や使い勝手の良さから、どうやら万能な指標かのように捉えられている節がある。いや、学習者の方にはそう見えないかもしれないが、金融業界ではEBITDAが過信されている節が確かにあるように思うのだ。EBITDAへの批判というのは、そういった過信への批判であるということを念頭において聞いてほしい。もともと万能ではないはずの簡易的な利益がもてはやされた結果、万能ではないという批判が起きている。いかにも不思議だ。

EBITDAへの批判は、整理してしまえば非常に簡単なことである。原材料費、人件費、広告費など以外の費用も考慮すべきだという批判なのだ。何も違和感はない。考慮している費用が不十分だから、もっといろいろ考慮しろという話である。設備投資を考慮すべきだという人が、EBITDA - Capexという計算式を主張したり、Capexの代わりにDepreciationを考慮すれば十分だというEBITA(Dがない点に注意)が登場したりする。EBITDA - Capexはいろんなところで見かけるが、名前がついていないので非常にややこしい。著名なファンドマネージャーなどは、ぜひこれに名前を付けて業界内で通じるくらいまで広めてほしい。いずれにせよ、この手の批判は、原材料費、人件費、広告費など以外の費用を考慮すべきだという主張の域を出ない。

企業比較と返済能力の評価に活用できる

すでに書いた通りではあるのだが、EBITDAは税金や減価償却といった国や地域によって異なる項目を除去しているから、企業間比較などに便利である。いまどきの企業はたいてい海外部門を持っており、純粋な国内企業というものはほとんど存在しない。このため、日本企業同士を比較するときでも、純利益を比較するよりはEBITDAを比較したほうが適切なことが多いのだ。別の国に存在する企業の比較だとなおさらだが、このような企業比較にはEBITDAが便利である。企業価値評価においても、企業間を比較するときによく使われる。企業価値(Enterprise Value)とEBITDAの比率であるEV/EBITDAという指標は、最も広く利用されているマルチプルだと言って差し支えないだろう。

さて、EBITDAは偶然にも返済原資に近い性質を持っている。償却費は現金の移動を伴わない費用であるから、返済能力を図るときは営業利益よりもEBITDAのほうが適している。利息についても債権者視点では利払前の利益のほうが分かりやすいといえる。利息はどうせ自分たちが受け取るものだからだ。税金は確かに引いた後のほうがわかりやすいが、わがままは言えない。EBITDAは十分に返済原資を確認するのに適した指標といえるだろう。EBITDAの3倍くらいの借金であれば、これまで通り企業を運営していれば返済できると考えられる。税金を考慮する必要があるので単純計算とはいかないが、EBITDAの3倍の借金があるというのは、3年少々で借金を返済できるという計算になる。EBITDAの4~5倍の借金となると、返済のためには順調な企業の成長が前提となる。成長が鈍化したり、利益が悪化したりすれば、返済が滞る可能性がチラつく。銀行もどうやら、EBITDAの5倍の融資というのは少し及び腰なようである。それなりに安定して成長している企業でないと融資が下りないのではなかろうか。EBITDAの6~7倍の借金をする企業は少ないが、好景気なときはこれくらいの借金をできることもある。EBITDAが大幅に成長していかない限り、借金の返済が滞る可能性が高い。銀行側もかなりリスクをとった水準だと思われるし、実際、銀行の方に話を聞くと、行内でも恐ろしい水準だと理解されているようである。話は脱線したが、EBITDAのX倍の借金という表現ができるくらいには、EBITDAは返済能力を測る指標として利用できるということである。

総括と読み方

EBITDAは、重要な費用のみを考慮した簡易的な利益であると考えるのが良いのではないか、というのが私の持論である。このように理解しておけば、不完全さは直感的に理解できるし、何でもかんでもEBITDAで評価しようとはしないだろう。また、EBITDAの計算はあくまで、売上高-償却費を除く売上原価と販管費という方法をとるべきである。営業利益+償却費でも結果的には同じだし、実務家の多くが簡易的にこのような計算方法をとっているのも事実だが、EBITDAという指標の意味を考えると邪道な計算方法だと言わざるを得ない。計算ミスの原因にもなりやすい。基本に忠実であることには、それなりに意味があるのだ。

EBITDAの計算を正しく理解しているかどうかを問う質問に「償却費が増えたら、EBITDAは増加するか」というものがある。当然、償却費が変化してもEBITDAは変化しないのだが、営業利益+償却費などという覚え方をしていると、償却費の増加に伴ってEBITDAが増加する可能用に思えてしまう。先の数式でいえば、償却費が増加すれば営業利益が減少するのだ。償却費が増えた分だけ営業利益が減少するから、営業利益+償却費は一定なのだが、この式を丸暗記しているとそのことが分かりづらい。結果として、「償却費が増えたらEBITDAも増加します」という地雷原まっしぐらな回答をしてしまう若手が珍しくないのである。

さて、最後にEBITDAの読み方に触れておく。イービッダーとイービットディーエーと読む人が多いように思う。どちらでも間違いなく伝わるので、言いやすいほう若しくはそのときどきの気分で選んでよいだろう。イービットダーと読む人もおり伝わりはするが、少し年配の方が多いように思うので、若者は前2種から選ぶことをお勧めする。