就活生が知っておくべき就活ビジネスの歴史

有料就活塾についてのご質問が何件か来たので。

総合求人情報サイト

就活ビジネスの走りといえばリクナビマイナビである。いずれも1990年代に開始された求人情報サイトである。一言でいえば、ハローワークの進化版である。

リクナビ以前の世界では、求職者は求人を探すのが困難だったと聞く。先輩からの紹介や、企業からの声掛けなど、どちらかといえば受動的な就活をしていたらしい。しかし、リクナビが出てきて流れが変わった。どの企業がどんなポストで募集しているかが公開情報となり、だれでも見つけられるようになったのである。

その結果、大量応募の時代がはじまった。大量の企業に応募して、手当たり次第面接に行き、内定をもらったところの中から就職する企業を選ぶという進め方である。

これらのサービスのKPIは掲載企業数である。月額掲載料で稼ぐビジネスモデルであるため、いかに多くの企業に掲載してもらうかが重要となる。掲載企業数が多いことによって就活生が集まり、登録就活生が多いことによって掲載企業が集まるというネットワーク効果が存在する。応募課金型は少ない又はないと思われるが、応募者数が少ないと翌年の掲載に繋がらないため、翌年の掲載のために応募者数を意識しているという格好である。

特化型求人情報サイト

残念ながら、多くの大学生には、企業を探す能力も企業を選ぶ能力もない。リクナビマイナビは、企業を探すという仕事を代行したといえる。

リクナビマイナビの推奨に従って、40社や50社もの企業に応募する就活生が増えた。当然、事業の概要すら把握していない企業に応募することになってしまう。「企業を見つけられない」という時代から、「企業を選べない・絞れない」という時代へと変わった。

そこで登場したのが、ハウテレビジョン社が運営する外資就活ドットコムや、トライフ社のワンキャリアである。いずれも2010年代前半にサービスが開始されている。これらのサービスがリクナビマイナビと一線を画すのは、あえて掲載企業数を絞ったところである。各サービスが定義する優良企業のみを掲載し、各サービスが定義する優秀な学生のみを会員とする求人情報サイトである。

これらのサービスは、「企業を選ぶ能力がない」という就活生の課題を解決したといえる。これらのサービスのKPIは、「優良企業」の掲載数であり、「優秀な学生」の会員数である。公開情報を見る限りでは、首都圏を中心にマーチ以上の学生が利用するサービスとなっている。

送客型就活塾

さて、外資就活やワンキャリアが、就活生に企業を選ぶ術を与えたことにより、選考の対策が可能になった。50社に応募していたら個別の対策は不可能であるが、5社にしか応募しないのであれば個別の対策が可能になる。結果として、就活では対策がものを言うようになった。2010年代後半の話である。

このころからいわゆる送客型就活塾台頭した。黎明期の就活塾サービスは、企業課金型がほとんどであった。ビジネスモデルはやや複雑だが、次のようなストーリー仕立てのものが多い。

  1. 外資系証券や外資系戦略コンサルの対策講座と称して、高学歴な学生を集める。

  2. 就活生の前で、ゴールドマン・サックスマッキンゼーを絶賛する。ハードスキルの重要性や、転職が素晴らしいことを説く。一理あるので、就活生が共感する。

  3. 一方で、日系大手企業を批判する。年功序列であり風通しが悪いなどと指摘し、転職が難しくなると説く。一理あるので、多くの就活生は共感する。

  4. 次第に、就活生の中で「外資系大手>その他>日系大手」という序列が出来上がり、自ら日系大手の批判を始める。

  5. 就活生の多くが、外資系証券や戦略コンサルの選考で不採用になる。採用数が少ないのだから当然である。しかし、自ら批判してきた日系大手に応募するわけにはいかないという状況が生まれる。

  6. 満を持して、ベンチャー企業が紹介される。「外資の選考は残念だったね。このベンチャー企業がおすすめなんだけどどうかな。外資系コンサルの出身者が創業しているから、外資系コンサルと同じスキルを身に着けられるよ。」

  7. 学生がベンチャーに就職し、就活塾はベンチャー企業から仲介手数料を受け取る。

大部分の就活生には企業を選ぶ能力がない。就活生から見た「優良企業」の定義は、外資就活やワンキャリアに掲載されているかどうかや、就活塾から紹介されるかどうかなのである。

したがって、就活塾から紹介された企業は、(本人はまったく知らない企業であるにも関わらず)優良企業だということになってしまう。

有料就活塾

特化型求人情報サイトや送客型就活塾の成長に伴って、少し状況が変わってきた。特化型求人情報サイトの掲載企業数がどんどん増えたし、送客型就活塾の生徒数も数百人から千人の規模となった。

こうなってくると、何も考えていない就活生たちでも違和感を覚えはじめる。「採用枠より就活塾の生徒のほうが多くね?」という疑問である。

この状況になって、有料の就活塾が台頭し始めた。2020年前後のことだと思う。就活生から授業料をとり、企業からはお金をもらわないスタンスである。

送客型就活塾の講師は、そもそも有名企業の出身者ではないことが多かった。IBDの仕事について特に知らない社員が、IBDの内定者が作った資料をもとにプレゼンするという、きわめて残念なクオリティだった。

一方で、有料就活塾の講師は、基本的には一流企業の出身者である。元IBDの社員がIBDの対策塾を運営し、元MBBの社員が戦略コンサルの対策塾を運営するのである。こうなると、助言のクオリティは確かに上がる。

一見すると、就活サービスの完成形のように見える。

これからの就活サービス

しかしながら、ここにきて就活サービスの根本的な問題が顕在化する。

そもそも、トップ企業に採用されるような学生たちは、自分で考えて対策ができるのである。逆に言えば、自分で考えられない人は、外部のサポートを受けても採用まで辿り着くのは難しい。

確かに、優秀な学生たちも外資就活やワンキャリアを読んでいるし、送客型就活塾にも参加はしている。ただ、そういう人たちは、それらのサービスがなくても自分で対策できるのである。

あくまで多少の効率化のために外部のサポートを活用することがあるだけで、本質的には外部のサポートを必要としていない。これは有料就活塾でも同じである。要するに、就活サイトも就活塾も、就活の結果には大して寄与しないのである。

さて、ポスト有料就活塾はどのようなサービスになるのだろうか。今後の展開が少し楽しみである。