回答可能な質問をするということ

答えられない質問について

背景

質問の質は質問者のセンスを表す。したがって、良い質問をするのは重要である。

今までも何度か、センスの良い質問をするための考え方について書いてきたが、今回は「回答可能な質問」というテーマで書きたいと思う。回答できない質問をするのは、センスがないと評価されるだけでなく、失礼だと捉えられる可能性もあるので、特に注意すべきである。

回答できないな質問にはいろんなパターンがあるが、ここでは代表的なものを紹介しよう。

未来の情報

来年のドル円は120円以下になるんですか?

比較的多いのは、未来に関する質問である。

ご存じない方もいるようだが、人類は未来予知の能力を持っていない。残念ながら誰に聞いても来年のドル円について正しい情報を答えることはできない。答えられると主張する人がいるとしたら、その人は詐欺師だろう。

百歩譲って「どう予想しているか」という聞き方をすればよいものの、その配慮すらないケースが多い。

過去の情報

ITバブルの崩壊時、IBDではリストラがあったんですか?

1つ前と反対だが、過去の質問も答えられないことがある。

例えば、ITバブルが崩壊したころ、私は幼稚園生とか小学生とかそのくらいの年齢である。このような質問は、ITバブルの崩壊時にIBDで働いていた人に聞かなくてはならない。

非公開情報

〇〇社の今期の業績って悪いんですか?

同じく多いのは、非公開情報に関する質問である。

非公開情報というのは、公開されていないから非公開情報なのである。内部者でないと知らないし、内部者は答えられない。よって、この手の質問は絶対に回答されない。

他社の情報

〇〇社の社風を教えてください

常識的に考えて、その会社で働いたことがなければ社風は分からない。

そして、この手の質問の対象になるのはマイナーな企業であることが多いので、大半の場合では「聞いたこともない」や「興味もない」というのが回答になる。一方で、本音で「興味もない」と答えてしまうと、その会社で働いている人に失礼になるから、回答するのが非常に難しい。

他人の情報(1)

〇〇さんの貯金額はいくらですか?

非公開情報の一種ではあるのだが、他人の情報は分からない。

例えば、私は所得を誰にも開示していないので、私の所得を正確に把握しているのは、私だけ(+税務署の担当者)である。このような他人の情報は、本人に聞かないと分からない。本人以外にこのような情報を聞くのはセンスがないと言わざるを得ないだろう。

他人の情報(2)

あなたが私の立場だったらどうしますか?

想像を絶するほどに多くて困るのが、「あなたが私の立場だったらどうするか」系の質問である。残念ながら私はあなたの立場ではないし、あなたのことを全く知らない。この質問をするなら、せめて自分の生い立ちや価値観を含めて情報開示を進めるべきである。

そして、この質問に対する率直な回答は、ほとんどの場合で「私だったら、あなたのような状況になる前に手を打つ」であることに気付いてほしい。そう答えても不機嫌にならないのなら、素直に答えるのだが。

他人の情報(3)

〇〇さんがこう言っていましたが、なぜですか?

こちらも非常に多い質問なのだが、他人の発言の根拠・背景を聞かれても答えられない。回答者はサイコメトラーではないのである。

この手の質問を本人に聞かない理由もよく分からないし、本人以外が答えられると思っている理由もよく分からない。数ある悪い質問例の中でも、最もセンスの悪い質問の1種だと思う。

統計情報

投資銀行の社員は何割くらいが独身ですか?

どういう思考回路のもとで聞いているのかが不明なのだが、回答者が統計情報を持っている前提の質問も多い。

投資銀行においては、提案資料に書くために各社員の学歴と職歴は公開されている。したがって、前職の社名(部署は不明)や出身大学名のみは、例外的に把握することができる。一方で、婚姻状況は書いていないし、何なら年齢も分からない。

統計を取らないと答えられない質問をするのは、シンプルにセンスがないと思う。私にアンケート調査をしろってことなのか?という印象を受ける。

専門領域の誤解

エンジニアなんだからFAXも直せるでしょ?

相手の専門分野を把握していないのは、かなり失礼に当たることがある。質問をしている側は何も考えていないのだろうが、回答をする側からみると、専門領域に対するリスペクトがゼロであるように映る。

有名なものとして、エンジニア向け転職サイトの「エンジニアなんだからFAXも直せるでしょ」というフレーズがある。エンジニアとFAX修理だとわかりやすいが、「証券マンなんだから株式投資もわかるんでしょ?」くらいの質問ならかなり頻繁に来る。証券会社には株式市場以外の仕事もあるし、証券会社と会計事務所は違う。

おわりに

回答者は超人ではないので、知らないこともある。

質問をするときは、相手に答えられる質問かどうかをよく考えるとよいだろう。そういった事前整理の積み重ねが良い質問を生むと思うし、良い質問をできるという能力は、いろんな場面で活用できると思っている。