ゲーム依存症の少年が勉強をはじめるまでの経緯

質問来てた(某YouTuber風

質問

結論

何が努力をするきっかけになるかは、本人にすら分からないと思われる。過去にやる気を出した事例があるのなら、そのときの状況を再現するのが有効なのではないかと思う。

もし、15-16年間にわたって一度もやる気を見せたことのなら、今後もやる気を出す可能性は低い。正確には、本人の中ではすでにやる気を出していると解釈したほうが良いだろう。周囲から見て「やる気がある」と判定できる水準になることは、今後の人生で一度もないかもしれない。

そういう場合は、無理にやる気を引き出そうとするよりも、やる気を出さなくても生きていけるように支援してあげるのが好ましいのではないかと思う。日本にはセーフティーネットがたくさんあるため、フリーターで生活保護でも十分に文化的な生活を送ることができる。

不登校

さて、私が知っている不登校生徒の話をしよう。

彼は、毎日夜通しゲームをやっていたせいで、日中に起きていることができなくなり、保健室登校になっていた。学校でやったことといえば睡眠くらいで、ほかに何もしなかった。朝のホームルームに出た後は、図書室や保健室に移動し、放課後になるまで熟睡だった。

授業に出席する習慣がなくなってしまったため、起きていても授業には出席せず、学校の近くにあったボウリング場でボウリングをやっていたくらいである。中学1年の後半から、高校2年の終盤まで4年半くらいの間そういう生活をしていたため、学力が中学1年生レベルのまま大学受験生になっていた。

次のゲームとしての受験勉強

ハマっていたゲームが下火になると、次のゲームを見つけるまでの期間は睡眠時間を確保できるようになり、日中起きていられる日が増える。

高校2年生の終わりころ、やっていたゲームにちょうど飽きてきて、次は何のゲームをしようか?と考えていたときだった。そのときにふと、次は受験勉強をやってみようかなと思った。たまたま良いゲームが見つからなかったことも大きい。

なぜ受験勉強が「ゲーム」の候補に挙がってきたのかは本人もよく分かっていないようだ。しかし、以下の要因はあったようである。

  1. やればできるような気がした
  2. やってみたらできた
  3. できたら続いた

ステップ1|やればできるような気がした

彼は教師という人種が嫌いで、教師に従順な "優等生" にも嫌悪感を持っていた。教師の言うことを鵜呑みにして、授業で配られたプリントを丸暗記することに尽力しているような "優等生" を見て、「頭を使っていない馬鹿」だとみなしていた。

俺だったらもっと効率的に勉強するのに。思考停止して教師に従うから馬鹿なんだよ。と思っていた。その中でふと、「じゃあやってみるか、一瞬で追い抜いてやるよ」という意識が芽生えた。

毎日12時間ゲームをする生活をしていたから、ゲームを辞めたら毎日12時間の勉強時間を確保することができた。

なお、当時の少年の学力は偏差値35程度で、学年ワースト10の常連だった。簡単な因数分解ができず、be動詞はギリギリ知っていたが、完了形の時制は知らなかった。

ステップ2|やってみたらできた

少年はまず、ToDoの整理から始めた。受験までにやっておくべき参考書をググって洗い出し、受験までの日数で割ったところ、参考書は1日1冊、問題集は数日で1冊くらいのペースで消化しないといけないことが分かった。できるできないではない。やらないと終わらないのである。

最初に手を付けたのは英語で、Forestという英文法書だった。この本が特別に良いと思ったわけではなく、ググって洗い出したテキストの中で、たまたま持っていたからである(学校指定で配られていた)。一日も浪費できないスケジュールだったため、持っているテキストから手を付けた。

最初に立てた目標は、この英文法書を1日で読み切ることだった。残念ながら1日では読み終わらなかったのだが、3日くらいで目を通すことはできた。勉強を始めて3日目で、「このペースでは遅すぎるが、"優等生" たちの数十倍の速さで勉強することは可能だ」という自信を持った。

ステップ3|できたら続いた

その後、英語のテキストを2日に1冊くらいのペースでこなしていった。完全に吸収できるはずもないが、急激に知識が増えていくのを感じた。

勉強を始める前に、高校で受けさせられたセンター試験模試では、200点中30点しか取れなかった。4択のマークシート式の試験なので、要するに1問も解けていないのである。しかし、勉強を始めてから2-3か月後に受けた模試では、点数が180点(得点率90%)まで伸びた。

ほかの科目も同じように勉強していったところ、急激に成績が伸びていった。周囲をごぼう抜きしていくのが面白くなって、勉強を続けることができた。

後にも先にも、ゲームのことを一切忘れて何かにのめりこんだのは、この頃だけだったように思う。

最重要ファクター

彼が勉強を始めたのは、ほとんど偶然だったと思う。SEGACapcomが偶然面白いゲームを発売していたら、受験勉強ではなくそのゲームをやっていただろう。

しかし、勉強が続いたのには必然性があったように思う。効率的な学習の方法を知っていたため、最初期から成果を出すことができた。成果が出るから自信がつき、はずみ車のように学習速度が加速した。金融的な表現を使うのであれば、非常に強力なモメンタム・ファクターがあった。

さて、なぜ効率的な学習方法を知っていたのか?という点を考える。答えは簡単で、過去に努力をしたことがあったからだ。過去にがむしゃらに努力をしたことがあったため、効果的な努力の仕方や、自分に向いている学習方法を知っていたのである。

例えば、目標から逆算してToDoを考えるべきだとか、最序盤には成果が出ないのが当然であるとか、重要なことは何度でも出てくるので1回で覚えなくてもよいとか、そういう定跡を把握していたのである。過去の努力において、無駄なことを経験し、何度も失敗し、成果が出ない時期に苦しんでいたため、先述のような進め方をできたのである。

残念ながら、一度も努力をしたこともない人が、いきなり一発逆転できるほど世の中は甘くない。

人生のどこかのタイミングでは、コツコツと試行錯誤をする時期が必要になるだろう。急激に追い上げることができる場面があるとしたら、そのときに獲得した資産を活用しているに過ぎない。そういう意味では、思春期を迎える前に、何らかの分野で「全国レベル」になっておくのが好ましいと思われる。小手先の知識を身に着けるよりも、こういった経験のほうがはるかに役に立つものである。

質問への回答

さて、当初のご質問に回答したい。

残念ながら、勉強をはじめるかどうかは運要素が強い。この記事で説明した事例でも、やる気を出したのは偶然といっても良いだろう。

一方で、わずかにやる気を見せたときに、それを火種として加速させる方法ならある。

例えば、勉強のために学校をさぼることがあっても見逃すとか、参考書に湯水のようにお金を使っていても目を瞑るとか、そういうことである。モメンタムを失わせてはならない。周囲にできることは、とにかく本人のやる気に水を差さないことである。